A PRIZE WINNER

審査員特別賞

松田聖子「火垂るの墓」

 昨年夏に公開された『火垂るの墓』(日向寺太郎監督)で、7年ぶりに日本映画に出演した松田聖子さん。  野坂昭如の直木賞受賞作の原作は、アニメとテレビドラマで日本中の人々の涙をしぼった、太平洋戦争の犠牲となった幼い兄と妹のあまりにつらく切なく悲しい物語だが、彼女が演じたのはこの兄妹を残して亡くなってしまう母親の役。  そこにはステージやテレビで見馴れている華やかな人気歌手・松田聖子とはまるで違う、女優・松田聖子がいた。
 愛する夫を戦場に送り出し、幼い兄妹をかかえて、健気にもりりしく生きる軍人の妻。気丈さの中にもどこかはかなげでホタルの精のようなその姿…。実に見事であった。  1980年に『裸足の季節』で歌手デビュー、二枚目のシングル『青い珊瑚礁』が大ヒット。その年の新人賞を総ナメにして以来、スーパーアイドル歌手として日本歌謡界に君臨し続けていることは誰もがよくご存知のはず。
 そして、その1年後には早くも映画に初出演。『野菊の墓』(澤井信一郎監督)で演じていたのも野菊の花の精のような薄幸のヒロイン・民子役だった。名作と謳われる木下恵介監督の『野菊の墓』の民子役・有田紀子とは異なる魅力を秘めた演技を見て「この新人、ただ者ではないな」と、その時鮮烈に感じたのを私は今懐かしく思い出す。
 これからも日本映画をより魅力的にするために、女優・松田聖子の活躍の場を大いに広げていってほしいと願っている。
( 渡部 保子 )