
監督賞
この春はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で「侍ジャパン」が日本の世界一連覇を決めてくれたのも凄かったが、その前に『おくりびと』が今年の米映画界最高の栄誉に輝いた全地球駆けめぐる生中継あの快挙こそ、忘れられない。熱狂させてくれた日はない。明るく、大きな大きな窓が日本列島ぜんたいに開かれたように思うほど。もっとも、たまらなく新聞もテレビも終末的な政局の下で、いやな事件ばかり目立って嬉しい話題がないから、曇った心を磨くには、値千金の喜びをおくり届けてくれた心温まるニュースだった。滝田監督に大感謝。素晴らしい日本の技術が世界に認められ、映画は言葉を国を超えると、実感した。
映画は生き物だなとつくづく思うのは受賞を機に再上映する映画館が、続々とほのぼのとグレード上昇の一途。興収55億。世界40カ国・地域以上で公開を。モントリオール映画祭のグランプリから中国最大の“金鶏百花賞”も。国内外で獲得の賞は作品・演技・技術賞含めると60冠をこえた。そのなかで断然、映画人には一番大切な「映画作りの腕」を評価されるのが「監督賞」だと、私は思う。
千の葬式があったら、千の風が、千のドラマがあるわけだけど、あれだけの独創と情感が日本人の優しさを清明に描き切ったのには、外国はやはり度肝を抜かれたのだろう。演出が光った納棺師を主役とする『おくりびと』のストーリーは新鮮で。滝田イズム溢れる映画人生は若き日のピンク映画からメジャー大作へ。その45作目の最近作が、な、なんと180度異なる題材ではあるけれど、あのウェルメイドな『コミック雑誌なんかいらない』『僕らはみんな生きている』『秘密』『バッテリー』など作品歴を知れば驚くことはない。旺盛な娯楽映画づくりのサービス精神は何ら変わっていない監督魂に、私は目頭が熱くなる。緑と渓流の水も美しい秋田ロケの新作『釣りキチ三平』で、いよいよ彼のファンとなった。富山県高岡の育ち53歳。もっと活躍の期待される滝田洋二郎監督に祝杯を。
( 瓜生 孝 )