A PRIZE WINNER

新人賞/男優(南俊子賞)

リリー・フランキー「ぐるりのこと。」

 リリー・フランキーさん。不惑をはるかに越えての新人賞受賞、ということになる。もともと映画俳優が本業ではないけれど、石井輝男監督の「盲獣VS一寸法師」や松岡錠司監督「歓喜の歌」、河崎実監督「ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発」、更には原作が自作ということで、いわば御祝儀出演となった「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」など、結構スクリーンにも数多く顔を出している。ところが、橋口亮輔監督が「ハッシュ!」以来6年ぶりに撮り上げた「ぐるりのこと。」では、とうとう映画初主演という偉業を為し遂げた。舞台出身で、映画女優としても経験豊富な木村多江を相手に、子供を失くした夫婦の夫役を、飄々とした表情と、あたたかな息づかいを感じさせる自然体の演技で好演している。
 とくに、台風の晩、真っ暗な部屋で、取り乱した妻をやさしく抱きとめ、「何故私と一緒にいるの?」という妻の問いに、「好きなんだから・・・」と答える長廻しのシーンは、慈愛に満ちあふれ、心打たれるものがあった。
 本名は中川雅也。福岡県北九州市出身の、れっきとした日本人である。イラストレーター、エッセイスト、小説家、絵本作家、デザイナー、ミュージシャン、演出家、フォトグラファーなど、実に多種多才な顔を持っている。この映画では、靴の修理工から転職した法廷画家という役柄を演じているが、武蔵野美術大学卒業という経歴から見れば至極当然、ピッタリのキャスティングともいえる。とにかく、彼の独特のタッチの絵には定評があり、東京福生市にあるディスコに行くと、彼の描いた巨大壁画を見ることが出来る。
 尊敬する人物は、ズバリ松田優作。優作とは少々タイプが違うとはいえ、今後は、映画界でも彼を放っておくはずはないから、その個性を生かした活躍を、大いに期待したいものである。
( 平山 允 )